― 多文化都市マキナタと巨大建築「蜂蜜館」の解剖 ―
※本記事はシリーズ第2回目です。
『ハクメイとミコチ』って、読むたびに「やっぱりすごいな…」としみじみ思う作品なんですよね。
かわいらしい日常の裏側に、ここまでしっかり“空間”があるのか、と。
建築士としてというより、いちファンとしてページをめくっていても、マキナタの街や蜂蜜館の中に「実際に歩いている感覚」がちゃんとある。この没入感って、やっぱりただの雰囲気では出せないんですよ。
評論家の加山竜司氏やササキバラ・ゴウ氏が言う“生活のリアリティ”って、まさにここだと思います。
■ 考察ポイント
・積み木市場|垂直に重なる「文化の密度」
まずは、マキナタの「積み木市場」。
これ、本当に見ていてワクワクするんですよね。店舗が横じゃなくて、どんどん上に積み重なっていくあの感じ。まるで“壁みたいな市場”。
断面図をそのまま街にしたような面白さがあります。
もちろん現実の建築として考えると、構造的にも法規的にもかなり厳しい。でも、それを分かったうえで「この形がいい」と思わせてくる説得力がある。
上下に文化が積み重なって、いろんな人やモノが交差していく感じ。この“圧縮された密度”が、そのまま都市の魅力として表現されているのが本当に見事です。
・蜂蜜館|増改築が生んだ「迷宮建築」
そして、やっぱり語りたいのが「蜂蜜館」。
正直、建築士目線だと「どうなってるのこれ…」ってなる建物です。
もともと個人の家だったのに、住人が増えて、その都度増改築していった結果、あの巨大な建築になっている。
内部はもう完全に迷宮。
動線計画なんてあってないようなものだし、階段も廊下も“つながってるようでつながってない”。
でも、それがすごくいい。
ちゃんと“人が住み続けた結果こうなった”っていう説得力があるんですよね。設計された建築じゃなくて、「暮らしが作った建築」。
この感じ、実務やってると逆に刺さります。
・様式とデフォルメ|「懐かしさ」をつくる設計
あと、細かいところなんですが、様式の扱いも本当にうまい。
窓の形、木の納まり、開口のバランス——ちゃんと考えられているのに、少しだけデフォルメされていて、ちょっと懐かしい雰囲気になっている。
リアルすぎない。でも嘘でもない。
この“引き算の設計”が、どこかで見たことがあるような安心感につながっている気がします。
・斜めの動線|空間にリズムをつくる
それから「斜めの移動」。
この作品って、坂道とか斜めの通路とか、とにかく動きがまっすぐじゃないんですよね。
これがすごく効いてる。
まっすぐな廊下ばかりだと空間って単調になるんですが、少しずつズレていくことで景色が変わるし、人との距離感も自然に変わる。
この“ちょうどいい曖昧さ”が、あの世界の居心地の良さを作っている気がします。
■ 結論
『ハクメイとミコチ』の建築って、冷静に見るとかなり自由です。というか、かなり無茶もしている。
でも、それが全部“いい方向”に働いているのがすごい。
マキナタの積み木市場の密度感も、蜂蜜館のカオスな増改築も、そして斜めに流れる動線も、全部がちゃんと「そこに人が暮らしている感じ」につながっている。
建築って、きれいに整えるだけじゃなくて、こういう“ゆらぎ”とか“積み重なり”も大事なんだよな、と改めて思わされます。
ファンとしてはただただこの世界に浸っていたいし、建築士としては「これ、現実でどうやる?」とつい考えてしまう。
そんなふうに、何度でも味わえる作品です。
■ この世界を“空間として体験したい人へ
正直、この作品は“読む”というより“歩く”感覚に近いです。
マキナタの密集した市場や、蜂蜜館の迷宮的な空間は、ページで見るだけだともったいない。ゆっくり細部まで追いながら読むと、建築の面白さが何倍にも膨らみます。
※紙版は「全体の空気感」、電子版は「ディテールの観察」に向いています
👉 『ハクメイとミコチ』をチェックする(Amazon)
■3巻(蜂蜜館1)
■7巻 (蜂蜜館2)
■1巻(アラビ1)
■6巻(アラビ2)
■ 建築好きならこの読み方がおすすめ
・1回目:ストーリーを楽しむ
・2回目:背景の“空間”だけを追う
・3回目:動線(人の動き)に注目する
これだけで、見え方がまったく変わります。
■ ひとこと
こういう作品に出会うと、「建築ってやっぱり暮らしそのものなんだな」と素直に思います。
図面の中で完結するものじゃなくて、人が使って、迷って、少しずつ変えていくことで空間は育っていく。
マキナタの市場も、蜂蜜館の迷宮も、きっと“誰かの生活の積み重なり”なんですよね。
だからこそあの世界はあんなにやさしくて、あんなに居心地がいい。
建築を仕事にしていても、ふと立ち返りたくなる。
そんな“暮らしの原点”みたいな感覚を、静かに思い出させてくれる作品です。
